賃貸マンションの改修が先日竣工しました。
この物件は約32年前に、アキ設計が設計した物件で
オーナー様とも、その頃からの長いお付き合いです。
この物件は築年数もそれなりに経ち、周辺の物件でも空室があるような地域なのですが
建築当時、敢えて周辺の物件とは違う、ファミリーでも住める広さに設計したこともあり
長く住まわれる住民の方が多く、不動産会社の方も驚くくらい、なかなか空室にもなりませんでした。
そんな中、建設当時から長く住まわれてた住民の方が引っ越されることになり
改めて、アキ設計に退去後の改修の依頼がありました。
|建設当時のままの内装に思わず…
退去された後に室内に入ると、室内の仕様はすべて建設当時のまま!
建物を設計した池上(弊社代表・当時は30代でした!)も、思わず
「わぁ~、懐かしい!設計した時は各部屋ごとにテーマカラーがあって
このお部屋は、黄色だったのよね~。ドアのデザインも当時のままだわ~」
と、感慨もひとしお。
賃貸であっても、住民の方に愛されて 長く暮らしていただいたことは
設計者にとって、とても嬉しいことです。
|不動産会社とオーナー それぞれの要望
この物件を担当している不動産会社からは、新しい入居者が入りやすいという理由で
このような提案がありました。
- スケルトンにして 全体をリノベーションしてはどうか
- 和室は人気が無いので 洋室にしてはどうか
- 床はすべて フローリングにしてはどうか
同時に、オーナー様からはこのようなご要望がありました。
- できるだけ予算を抑えた改修にしたい
賃貸を経営されているオーナー様にとっては当然のご要望です。
実は、数年前に同じ物件の他の部屋では、大規模にリノベーションを行っていました。
しかし、今回のタイミングでは、コロナ禍やウクライナ情勢、円安による影響で
数年前に比べてさまざまな設備機器や建材の価格が格段に高騰しています。
加えて、廃材処分の厳密化や職人不足による人件費の高騰などもあり
数年前にリノベーションできた同じ費用をかけても、同じような改修は難しい状況です。
(さらに電気代や光熱費の高騰で、工事作業中に掛かる費用も上がっています)
そこでアキ設計では、オーナー様の思いや予算を踏まえて
新たな改修プランを検討し、ご提案しました。
|オーナー・入居者にとって 本当に必要なリフォームとは
オーナー様や次に入居される方にとって「本当に必要なリフォーム」とは何でしょうか。
それは、住民の方にとっては
安心して暮らしていただけること
気持ちよく暮らしていただけることです。
オーナー様にとっては
費用をできるだけ抑えること
不具合や故障などが少なく 手が掛からないこと です。
これは単に、今回のリフォーム時の工事費用だけでなく
長い目で見て、問題が起こらない(メンテナンス費用が掛からない)ようにすることです。
| 賃貸物件リフォームのポイント
賃貸物件に限らず、あらゆる住宅の設計でも共通のことですが
物件をリフォーム・リノベーションする際には3つのポイントを常に意識しています。
- 見た目で綺麗にするだけでなく 見えない部分こそ改修する
- 流行にとらわれず フレキシブルに対応できる間取りにする
- 丈夫で メンテナンスコストが抑えられる仕様にする
このポイントに基づき、実際に今回の改修で行った具体的な内容は 以下のようになりました。
- 間取りは変えず そのままにする
- 和室を残す(畳は新調する)
- 水廻り機器(キッチン・浴室・洗面)をすべて交換する
※トイレだけは数年前に交換済みだったためそのままにする - 設備配管をすべて交換する
※特に鉄管だった給水給湯管をすべて新しい樹脂製の配管(架橋ポリ)に交換 - 室内ドア類をすべて交換する
※経年劣化で傷んでいたレバーハンドルや丁番・鍵類も刷新 - 内装材をすべて貼り替える
この物件では、設計時からメンテナンス時のことも考え、建築当時の賃貸住宅としては珍しい 二重床構造にしていました。
このため、上下階の住居に影響を及ぼすことが無く、単一住居内での配管交換も可能となりました。
今回の工事では、床下にある古い設備配管を交換するため、床はところどころ大きく穴をあけることになりました。
空いた穴をふさぐには、上から新しくフローリングに貼り替えれば簡単に一括して綺麗に塞ぐことは可能ですが、何しろ費用が掛かってしまいます。
また、フローリングは人気がありますが、実はキズや凹みに弱く、もし部分的に傷んでも部分的に補修することも難しいため
メンテナンスコストを考えると賃貸には不向きな床材です。
そこで今回は、配管交換のために床に大きく空けた穴は補修し、既存のコルク床の部分は上から 新しく木目調のビニール床タイル仕上げとして
見た目にも綺麗に、もし将来的に経年して傷んでも 簡単で安価に貼り替えができる(上貼りができる)ようにしました。
現在、ビニール床のタイルは種類も豊富で、フローリングに似た柄やタイル柄など、好みや流行に合わせてインテリアを演出することができます。
賃貸にとっては空室状態がオーナー様にとっては一番の問題となることですが
今回は改修中に入居者を募集し始めたところ、改修時の現場も募集時に見学OKにすることで、すぐに次の入居希望の方が決まりました!
(工事中に現場で間取りや内装を見て、すぐに気に入られたそうです😊)
長く愛された物件は、相応な理由があるものです。
時代に合わせて設備などはより良い仕様に変えていく必要がありますが
意外と「住みよい間取り」は、変わらないものなのかもしれません。
┏ 記事監修・一級建築士事務所 アキ設計 矢島理紗 ┓
建築士。福祉住環境コーディネーター。“今”お客様が満足するだけでなく、“10年後”も安心して楽しく暮らせる設計を大切にしています。
プライベートでは3人男児の母で、夫の親との二世帯住宅暮らし。寝かしつけの後、お気に入りの音楽を聴きながら家事をするのが癒しの時間。