定年後、ローンなしで建て替え! 土地分筆・売却で建てた谷様

定年退職後、ローンなしで建て替え

んにちは! つながる暮らしを大切にする新築&リフォームを行う、横浜・川崎の女性一級建築士事務所、アキ設計です。

「親から土地を相続したが、どのように活用すべきか迷っている…」
「定年後、ローンは組めないけど、家を建て替えたい! でも老後が不安」

お客様のご相談にのっていると、こんな悩みを聞くことがあります。今回は、相続した土地を分筆(登記されている土地を分割し、土地台帳に登記し直すこと)して売却し、ローンなしで家を建てられた谷様ご夫妻の事例をご紹介します。※プライバシーを守るため、名前は仮名、内容を少し変更させていただいております。

当初の谷様のお悩み

谷様ご夫妻は60代半ばで、2人暮らし。ご相談にのらせていただいたのは、同居していたお母さまが亡くなられ、古くなった家の建て替えを検討されているタイミングでした。亡くなられたお母さまはアパート経営をされており、相続したご自宅は、敷地100坪の賃貸併用住宅。ただし築は55年で老朽化しており、入居者は1人。地震による災害など、住み続けるには不安がありました。

そんなときご夫妻にアプローチしてきたのが、大手の不動産開発業者でした。提案されたのは、鉄骨3階建ての賃貸併用マンションを、敷地いっぱいに建てるプラン。月15万円の利益が出るという話ですが、数千万円の借入が必要に…。旦那さまは既に定年退職されており、建て替えるには独立している息子さんと共同でローンを組む必要がありました。

土地は、千葉県船橋市内のJR沿線の駅から、さらにバスに乗り継いで20分の場所。不動産開発業者は「将来的に回収できますよ」「建て借るなら賃貸にしないと老後が不安ですよ」と言いますが、常に賃貸を満室稼働できるような場所とは思えません。ご夫妻は賃貸経営の苦労を知っているので、大きな借金を抱えるほどこのプランにメリットを感じませんでした。

しかし貯金がたくさんあるわけではないので、賃貸なしの普通の住宅に建て替える場合も、息子さんと共同でローンを組む必要がありました。老後のことを考えると、多少の賃貸収入があった方がよいような気もするし…。どうするべきかご夫妻は悩まれていました。

解決策

相当な額の借金を息子さんと背負ってマンション経営をするのが本当に幸せなのか…。私たちは谷様にとって何がベストか模索し続け、結局100坪の敷地の一部を売って資金を作り、新しく住宅を建てるという方向で進めることになりました。口で言うのは簡単ですが、実行するのは大変。今回のように売却する場合は、分割した土地の所有者の情報を登記する「分筆」が必要になります。

正確な確定測量図があればよいのですが、古い土地の場合は公図と現況が微妙に違うため、分筆するために測量し直して申請しなくてはいけません。谷様宅は広いので、行政に加えて隣接する8軒と境界を確認する必要がありました。この境界確定測量は、弊社と長年のお付き合いがある土地家屋調査士をご紹介し、依頼することになりました。隣地の所有者に立ち会っていただいて境界を合意し、境界標を設置して登記を行います。これだけで時間にして3ヵ月程度。土地家屋調査士さんにお支払いした費用は60~70万円程度でした。

どんな風に土地を分割すると、資産価値の高い土地を残せる?

売却にあたっては、不動産業を営んでいる谷様のご友人が、土地を買ってくれる業者さんを見つけてくださりました。さて、ここからが問題でした。その業者さんが、下図にような2つのプランを出したのです。

(図を挿入 Aパターン:手前の40坪を売り、奥の旗竿地に谷様が住むパターン Bパターン:手前35坪に谷様が住み、奥の旗竿地を売るパターン)

Aパターンは、手前の40坪を4200万円で買ってくれるというものでした。谷様は、60坪ある、奥の旗竿地に住むという形。業者さんが買う道路に面した土地は20坪・20坪の2軒に分けて販売する意向でした。

Bパターンは、手前の35坪を残し、ここに谷様が住むというもの。後ろの旗竿地65坪を業者さんが3500万円で買ってくれるという話でした。業者さんは、旗竿地を2つに分けて売る意向でした。

この2パターン、あなただったらどちらを選びますか?

業者さんの意見では、「広い土地が残り、お金もいっぱい入ってくるAパターンの方が谷様にとっては絶対にいいですよ」とのこと。谷様はほとんどAパターンに決めかけていました。家の設計図も2パターン出しました。平面で図だけで見ると、Aパターンは平屋で余裕があり、悠々自適な老後が送れそうだと谷様は感じたそうです。一方Bパターンは2階建ての設計でした。

…しかし、住みやすさ、手放すときの売りやすさ、さらに資産価値で考えると、どうでしょうか?

Aパターンの場合、東側も西側も北側も隣家に面していて採光がとれません。さらに、売却して南側の土地に建てられる予定の家は、1軒あたり20坪のため、3階建ての可能性が高いでしょう。そうなると、新しく建てる谷様宅は採光がぜんぜんとれません。1階が真っ暗になる可能性もあります。しかも旗竿地なので、駐車するのもひと苦労。8軒の家と隣接しているので、ご近所の関係にも気を遣うことになります。

大問題は、将来的にこの土地を売却することになったときです。旗竿地は、基本的に売りにくいです。ある程度広さがあるから建売住宅にもできないので、ハウスメーカ-にはまず買ってもらえないでしょう。買い手がなくて困るのは目に見えています。

一方Bパターン場合、南側が道路に面しているので日当たり抜群。東側と西側の、旗竿地の細長い部分は駐車場になるため、3面採光が実現します。光がたっぷり入る、明るいおうちになるでしょう。駐車もしやすいですし、しかもこれまでは8軒の隣家に囲まれていましたが、これからは2軒ですみます。

将来的に手放すときがきたとしても、これだけ採光のとれる、道路に面した土地であれば、買い手がつくでしょう。谷様の奥様はお料理上手で、フレンドリーな明るい方。「新しい家にお友達を呼びたい」とおっしゃっていましたが、Bパターンなら音に気を遣う必要もなく、車もとめやすいし、ご友人が遊びに来たときの印象も良いはずです。

さらに谷様には、坪単価という観点から土地の価値を考えていただき、心から納得していただくことができました。
《Aパターン》 所有面積60坪・売却面積40坪 売却価格4200万円 ⇒ 手放す土地の坪単価は105万円
《Bパターン》 所有面積35坪・売却面積65坪 売却価格3500万円 ⇒ 手放す土地の坪単価は53.84万円
Aパターンの土地とBパターンの土地ではどれほど価値が違うか、数字で見るとよくわかるのではないでしょうか。

土地の一部を売却するときは、資産としての土地の価値も考えるとよいでしょう。またAパターンを選ぶと、工事の際に旗竿地にクレーン車が入れません。人力で工事をすることになるので、施工に時間がかかり、その分建てるのに費用がかさみます。

結果

こうして谷様はBパターンで売却することに決めました。手持ちのお金とあわせて上物にいくらかけられるか試算して設計プランを作り、結局住宅ローンを組まずに一括で家を建て替えることができたのです。

谷様宅は今、完成間近です。インテリアを揃えるのを楽しみながら、新しいおうちに対するワクワクでいっぱいの谷様。「ローンを組まずに済んでよかった」と喜ばれるお顔を見ていると、私たちまで嬉しくなってきます。

私たちは、目先のメリットではなく、10年、20年先もずっと安心して暮らせる家を提案したいと思っています。利益だけ考えれば、Aパターンの方が建物にお金をかけられます。採算だけを考えたらその方が良いのかもしれません。

でも、私たちはお客様が将来を本当に幸せに生きられる道を探したいと思っています。どこまでも根気強く、人間らしく、お客様にとって良い家を建てるお手伝いができたら嬉しいです。

┏ 記事監修・一級建築士事務所 アキ設計 矢島理紗 ┓
矢島理紗建築士。福祉住環境コーディネーター。“今”お客様が満足するだけでなく、“10年後”も安心して楽しく暮らせる設計を大切にしています。「こういう方法もあるよ」「こうしておくとこんなメリットがあるよ」など、何年経っても困らないようにいろんな選択肢を提案したいです。プライベートではわんぱく3人男児の母で、寝かしつけの後、お気に入りの音楽を聴きながら家事をするのが癒しの時間。